【1日の決断回数はおよそ35,000回】1日9,000回は研究は根拠なし!

*注意:こちらの記事は別運営していたブログの記事を移した内容となっています。そのため、出典情報などが昔の内容となっており、もしかすると最新の研究では若干異なった主流が展開されているかもしれません。しかしながら、本記事の目的は、2019年当時、エビデンスが不十分にも関わらず決断回数は9000回であるという論調の是正を試みるものだったため、内容はあえて、当時と変えずに掲載することにいたしました。実際、再投稿を行った2024年6月段階では「決断回数 何回」とグーグル検索するとほとんど9000回という記載は見なくなりました。5年越しとはなりますが、本記事の目的は概ね達成したと言っても過言ではないのかもしれません。長々と綴ってしまいましたが、どうぞ続きをご覧ください。

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人は1日に多くの決断を行います。

決断回数が増えるほど疲れが生じ決断疲れを引きおこすことから、著名な人物などは毎日着る服を同じにすることで1日の決断回数を減らしているなんて話も聞いたりします。

ところで、インターネットで決断回数について検索すると、1日の決断回数はおよそ9,000回と記述するサイトを見かけます。

がしかし、9,000回という数字の根拠はどのサイトを閲覧しても掲載されておらず、ほんとに9,000回なのかが不明瞭です。

なので今回は、9,000回の根拠資料と実際に何回決断しているのかを調べてみることにしました。

結論から言うと、1日における人が下す決断回数は研究報告が見つかった35,000回という数字が最も妥当な数字で、日本で言われている9,000回はどこで述べられた数字なのかを準拠するエビデンスが見つからないことがわかりました。

日本で想定されている9,000という決断回数は、デマである可能性がかなり高いかと考えられます。

9,000回という数字の根拠が見つからない

まず、あらゆる方法で検索してみました。

日本語でのGoogle検索結果

とにかく「人 1日 決断回数」でググってみると、こんな感じでした。

人1日決断回数検索結果

 以下、検索結果上位のサイト記事

検索上位に上がった5つのサイトをみると、その内の4つが「1日の決断回数は9000回と言われています」と記述しています。

一方で、4番目に上がっていたこちらのサイトを閲覧すると、帰納的な答えとして63800回と記述されています。

また備考として、はどのサイトにおいても「決断」以外に「判断・選択」といった表現の定義は統一されていないようです。

9000回という根拠の不明瞭  

決断回数検索結果の候補

しかし、9000回という数字は頻繁に現れるものの、この数字の根拠を示す資料などが見つかりません。

一体9000回という根拠はどこから来たのか、、そしてそもそも9000回は信憑性を持った数字なのでしょうか?

日本論文検索エンジンの「CiNii」でも色々調べましたが、出てこない。。

(もしかするとマジで探せば発見できるやもしれないが、それは関心ある人のボランティアでお願いします。雰囲気無いと思うけど)

英文検索では35,000回と示す研究データがあった

次は、指向を変えて英文検索しました。

英文でGoogle検索した

根拠を求めて英語で検索すると、出てきましたね。

グーグルで一旦「how many decisions in a day」と検索すると、以下のような結果が出ました。

(Advanced researchで過去1年間の比較的新しい記事がでるように設定)

決断回数英語での検索結果
決断回数英字による検索結果2ページ目

上位検索の3つをみてましょう。

(Quoraは知恵袋みたいなサイトなので除外。また、先生・CEOといったような対象を絞っている記事も同様に除外)

これらの記事には全て「人が1日に行う決断回数は35,000回」と記述されています。

ここでまさかの9,000回でなく、35,000回という結果になりました。

さらに関連キーワードも以下の通り。9,000という数字は表示されず、35,000という数字だけが表示されています

決断回数英字による検索候補

根拠資料を普通に発見(Sahakian, B.J & Labuzetta, J. N., 2013)

それら上位ヒットのサイトが丁寧に引用を載せていたので、1日あたり35,000回のエビデンスを示す研究がすぐに見つかりました。 

検索トップだったHow Many Decisions Do We Make Each Day? | Psychology Today の記事を確認します。 

以下、引用抜粋(原文のまま、赤字のみ筆者編集)

In fact, some source ssuggest that the average person makes an eye-popping 35,000 choices per day. Assuming that most people spend around seven hours per day sleeping and thus blissfully choice-free, that makes roughly 2,000 decisions per hour or one decision every two seconds.

引用:How Many Decisions Do We Make Each Day? | Psychology Today  (2019年5月31日閲覧)

「いくつかのソースによると、人は平均で1日に35,000回の決断をする」と記載されています。

また、追加として「1時間あたり約2,000、2秒あたりに1回の決断をしている」とも言及されています。

文中の”some sources”は”Roberts Wesleyan College”のホームページ記事になっており、35,000回に関する記事が紹介されています。

「35,000 Decisions: The Great Choices of Strategic Leaders」から一部抜粋

 (原文のまま、赤字のみ筆者編集)

Various internet sources estimate that an adult makes about 35,000 remotely conscious decisions each day [in contrast a child makes about 3,000] (Sahakian & Labuzetta, 2013). This number may sound absurd, but in fact, we make 226.7 decisions each day on just food alone according to researchers at Cornell University (Wansink and Sobal, 2007).  As your level of responsibility increases, so does the smorgasbord of choices you are faced with.

引用:35,000 Decisions: The Great Choices of Strategic Leaders (2019年6月1日閲覧)

その他にも、成人と対象的に子供は1日3,000回の決断をすることや、コーネル大学による、食べ物に関しての決断だけでおよそ226.7回の決断を下しているという研究結果にも言及しています。

引用からもわかるように、この決断回数に関する研究はSahakian, B.J(2013)らによるもので、”Bad moves: how decision making goes wrong, and the ethics of smart drugs”という著書にまとめられていることがわかりました。

1日あたりの決断回数が35,000回であるというのは、れっきとした研究結果によって裏付けされた数字であることがわかりました(その研究についての質やn値などの信憑性についてはまた別の問題だからここでは議論しない)。

となると、ますます日本で言及されている9,000回はどこからやってきたのだろうか。

↓著書はAmazonと楽天の両方で価格1100円くらいで置いてありました。洋書にしてはこの本かなり安価ですね。

結びにかえて

以上が、人の1日あたりの決断回数に関する内容でした。

今回は内容をまとめてから、筆者の考察も添えて終わりたいと思います。

まとめ

内容をまとめると以下のようになります。

・日本で、人の決断回数は9,000/dayと言われている(ネットに限った話)が、その学術的根拠は見つからない。

・9,000回という数字がどこからやってきたのかも不明

・米国の研究によると、1日における人の決断回数は35,000回

本記事から導かれる考察

今回の選択回数から見えたことを記述します。

日本の引用頻度と文化

 今回の決断回数の研究を調べたことにより見えてきたことは、英文検索で出てくるサイト・ブログの多くでは、一次情報や文献(史料や研究)の引用が頻繁に行われている一方、日本語検索で出てくるサイト・ブログは、一次情報や文献の引用が少ない傾向にあるということです。

 もちろん、研究や政府文書のような文献が非常に重要かつ社会的影響の大きいコンテンツに関しては、文献の引用は当たり前に行われている(無いとインチキ)のですが、個人ブログやSNSのような比較的規模の小さいコンテンツでは、ほとんど引用という行為は行われていません。

 自身の体験談などを扱っているコンテンツにも引用をする必要は無い(そもそも引用のしようがない)ものの、今回の決断回数などといった一般論として展開されたコンテンツには一次文献を引用しなければ、情報の元手が掴めないことに加え、コンテンツ自体の信憑性を大きく欠落させてしまうと言えます。

「誰が言ったか」より 「何を言ったか」に焦点を

 よく、「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」が文脈の本質的内容より重視されることがあります。

 この現象は心理学的にはハロー効果と呼ばれるものであり、どんな時でも起こりうるものですが、日本は、特に「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」を重視する傾向にあるように思えます。

 「何を言ったか」よりも、「誰が言ったか」の方が重視されるため、内容の信憑性が不明確でも「あの人が言っているから」という理由で間違った情報が真実のように扱われてしまいます 。

 その結果、今回の決断回数のように出所のわからない情報が拡散されるに至ったのだと考えられます。憶測ですが、この決断回数もどこかのインフルエンサーが「人は1日あたり9,000回も決断しているって知っていますか?」といった旨の話が拡散したことが発端なのではないでしょうか?

 以下の記事「教養の無い人は、何を言ったかではなく誰が言ったかで判断する | 節約社長」では、なぜ「誰が言ったか」を重視する人は教養が無いなんていう論もあります。

 ですが、筆者は個人的に中等教育段階までに、物事の本質的な内容をどれだけ吟味するかといった教育を行なっていないことにも問題があるのではないか。なんて思ったりします。

 「誰が言ったか」ということを完全に軽視して良いというわけでもありませんが、やはり「何をいったか」にもそれなりの意識を向けていくことが重要なのでは無いでしょうか?

引用学術文献(References)

・Sahakian, B. J., &, Labuzetta, J. N., 2013, “Bad moves: how decision making goes wrong, and the ethics of smart drugs.” London: Oxford University Press. 

・Roberts Wesleyan College, 2015, “35,000 Decisions: The Great Choices of Strategic Leaders”, https://go.roberts.edu/leadingedge/the-great-choices-of-strategic-leaders (2019年6月1日閲覧).